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モンゴル音楽に関する博士/修士論文(Thesises and dissertations on Mongolian music)

 モンゴルの音楽に関する英語圏(英米)の論文が2000年代に入って増えてきている。
その嚆矢は
Pegg, Carole.(2001)”Mongolian Music, Dance, & Oral Narrative”, University of Washington Press
で、1980年代後半の冷戦の緊張緩和、続く1990年代のモンゴル国の民主化が現地調査を可能にし、ペッグは1987年から内モンゴルで、1989年からモンゴル国で通訳付き(ちなみに、私はこの当時通訳をしたうちの一人に大学でモンゴル語を習ったことがある)とはいえ比較的長期間かつ広い範囲でのフィールドワークを行い、また現地出版の文献の収集に努めた。結果、最初の本格的なモンゴルの音楽民族誌を著すことができた。
 モンゴルではなく隣のトゥバ共和国に関するものだが
Levin, Theodore/Suzukei, Valentina. Where Rivers and Mountains Sing-Sound, Music, and Nomadism in Tuva and Beyond. Bloomington and Indianapolis:Indiana University Press, 2006.
があり、実は少しモンゴルにも触れられている。
 この2つは、この地域の音楽書として欧米で特によく知られている。ペッグの書はモンゴル国では参照されることはあまりないし、レヴィンの書がトゥバでどう評価されているのかはわからない。この2つは、遊牧民の音楽文化の伝統の再構築とその現代における復権に焦点が充てられている。大雑把に言ってしまうとペッグにおいては、宴の歌などにみられる人間同士の、あるいは人と自然との対話とアイデンティティの問題であり、レヴィンにおいては自然現象の物真似(サウンド・ミメーシスと定義づけされている)としての音文化である。自然との対話、という点で2つの論は共通しており、「遊牧生活の伝統」に関する本質主義的な語りが特徴である。
 この2つとは対照的なのが
Marsh, Peter K. The Horse-head Fiddle And The Cosmopolitan Reimagination Of Tradition in Mongolia (Current Research in Ethnomusicology). New York:Routledge, 2009.
である。こちらは馬頭琴を国民文化論の視点から扱っている。20世紀に馬頭琴がモンゴル地域の様々なヴァリアントを持つポピュラーな楽器から、国家の象徴としての位置を獲得するに至るまでのプロセスを描いた。しかし実はこの論文も、最後の章では地方に残る伝統的な文化を背景にした地方の劇場のレパートリー開拓を称賛して終わっている。
 以上3つは出版されているが、特にペッグの後に続くものとしてモンゴル音楽に関しては、修士論文、博士論文がいくつか書かれている。オルティン・ドーに焦点をあてたものが一番多く、例えば修士論文
Carrizo, Liliana.,URTIIN DUU: PERFORMING MUSICAL LANDSCAPES AND THE MONGOLIAN NATION, University of Illinois, 2010.
ではオルティン・ドーの果たす役割、特にアイデンティティの表象としてのこの種の歌謡がテーマである。
 オルティン・ドーが現代文化の中で歌われる「場」を問題にしたものもあり、同じく修士論文の
Giron, Gabrielle., Norovbanzad's Legacy: Contemporary Concert Long Song in Mongolia, Master thesis, The Florida State University, 2007
と博士論文の
Chao, David., Urtiin Duu: The Mongolian Long Song in Mongolia and China, Proquest, Umi Dissertation Publishing, 2010.
が該当する。モンゴル国を代表する歌手個人を主題にした前者に対して、後者ではモンゴル国と内モンゴルの都市と地方で、オルティン・ドーが現在どのような歌われる機会があるのか、詳細な描写がなされる。
博士論文の
Sunmin Yoon, CHASING THE SINGERS:THE TRANSITION OF LONG-SONG (URTYN DUU) IN POST-SOCIALIST MONGOLIA, University of Maryland, 2011.
は複数の歌手へのインタビューやオルティン・ドーのレパートリーの扱われ方などから、オルティン・ドーが社会主義崩壊後の国家のシンボルであるとともに前近代との連続性を示す文化遺産として機能していることを明らかにしており、馬頭琴におけるMarshと同じく、国民文化論の枠組みで語られている。
 修士論文の
Logan, Erica Marin, "Moving Melodies: Contemporary Music Culture of Mongolian Nomads and Opportunities for Contextualization", Ethnomusicology Masters Thesis,2008.
もポスト社会主義の音楽活動を扱っているものの、遊牧民的な音楽活動や音楽を行うこと自体が遊牧民のアイデンティティに関わる、などといった本質主義的な枠組みを出ておらず、さらにこの研究自体がキリスト教布教をモンゴル国で円滑に進める目的で行われていることに注意が必要である。
 伝統音楽以外を扱ったものではモンゴル国内でもほとんど研究されていない映画音楽を扱った
Rees, Lucy Miriam., Mongolian film music during the Socialist era (1921-1990) and its aftermath. PhD thesis, University of Leeds. 2011.
が目を引く。映画音楽や歌謡曲を研究することは、アカデミックな訓練を受けた高名な作曲家が大衆歌からオペラまで何でもこなしたモンゴル国においては、この国の音楽実践全体を明らかにするうえで特に重要である。
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Yapony Bagsh

Author:Yapony Bagsh
Welcome to the world of Mongolian music! I've studied Mongolian language and musical culture in Ulaanbaatar(the capital of Mongolia) for one year. I hope you enjoy various music of Mongolic peoples.

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